コラム

~「金継ぎ」~ 日本伝統の手仕事と魅力

2021.06.04

皆さんは「金継ぎ」をご存じでしょうか。
金継ぎとは、欠けたり割れたりしてしまった器を主に漆と金粉を使って修復する日本の伝統技術のことです。金繕い、金直しとも呼ばれ、金粉を蒔いて仕上げをすることで、継ぎ目がまるで新たな模様のようになり、世界にひとつしかない特別な器になるのです。修復は陶器だけではなく、ガラスや木器、漆器も可能です。近年、壊れた器を自分の手で直して、長く使い続けたいという人が増えたことから、金継ぎの教室やワークショップも増えています。そこで、今回はその日本独特の技術、金継ぎを体験してきました。

【金継ぎの手順】

本来、金継ぎは本漆、小麦粉や木粉など至ってシンプルな材料を使って行います。本漆単体では皆さんもご存じの通り塗料として使われますが、小麦粉を混ぜれば接着剤に、木粉を混ぜればパテに、土を混ぜればペーストになり、漆の高いポテンシャルが窺えます。そして金継ぎの工程もとってもシンプル。

1.割れた破片をくっつける
2.欠けた箇所を埋める
3.修理した箇所に漆を埋めて金粉を振り、乾燥させて定着させる

ただ、この本漆を使用することで乾燥に約1か月、ひとつの作品を作り上げるのにも最低1年と時間を要するなど手間と時間がかかり、更に漆は手肌がかぶれてしまう恐れがあるなど体験ではお勧めされていません。そこで今回の体験では、漆の代用素材とエポキシ接着剤、およびパテを使用。修復部に真鍮粉/銀粉と食品衛生法に適合した漆風塗料を使用し、天然の漆は使用しない、「なんちゃって金継ぎ」を行いました。

①今回はこちらの器を直していきます。

②接着をさせます。

③漆風塗料と真鍮粉を付けました。

④2日間乾燥させて完成!

作業としては約2時間、乾燥を含めると3日間で完成しましたが、作業はとても繊細で、集中力のいるものでした。しかし割れてしまってもう使い物にならないと思っていた器も新しく生まれ変わり、自分だけの器になったような気がして余計に愛着が湧き、ずっと大切にしようという気持ちになりますね。

【金継ぎの歴史】

そもそも漆で器などを修復することは、縄文時代から行われていたようです。漆で修復されている縄文土器が多数出土されています。このことから、当時は漆での修復作業がポピュラーだったのかもしれません。

そして「金」で装飾して仕上げるというのは室町時代のお茶の文化からでした。16世紀後半、富豪な商人であった「茶の湯」の名人、千利休が時の権力者である織田信長や豊臣秀吉の茶頭(茶頭:茶の師匠)を務めており、日本の精神文化に大きな影響を与えました。そんな中、茶道具(茶釜、茶入れ、茶碗等)の名物(名物:有名でとても高価なもの)のコレクターであった織田信長は、「茶の湯」を富と権力の象徴として政治に利用していたのです。織田信長は、家臣たちに自由に「茶の湯」の茶会を開くことを禁じ、戦いの勝利に大きな功績のあった家臣への褒美として、1国1城を与える代わりに、茶道具(茶釜、茶入れ、茶碗等)の名物を与え、「茶の湯」の茶会を開く許可を与えたのです。

よって、名物の茶道具(茶釜、茶入れ、茶碗等)で「茶の湯」の茶会を開くことは、当時の大名たちが憧れた富と権威の象徴であったのです。この様に、茶の湯に必要な茶碗は当然高価なものだったので、壊れてしまったとすれば、そのものに対する執着心は今よりも一層強かったことは容易に想像が出来ます。だからこそ、この技術が愛されていたのでしょう。

また、お茶の世界には「もののあわれ」とか「風流」「わび・さび」を楽しむ志向があります。普通なら「古びて価値が無い」としてしまうものでも、そこに「全てのものは諸行無常」という、人の心を執着から解放し、安らかな精神状態へと導いてくれる、高い価値を見出す「特殊な評価軸」が茶の世界にはあったわけです。修復した痕を「景色」と呼びますが、昔の茶人はこれを「川の流れ」などと称し、そこに、日本ならではのわび・さびの美を見たのです。新品の茶器を割って、わざわざヒビを作り、あえて金継ぎを施すことさえあるのです。要するに、「新しいピカピカのお茶碗を使うのは野暮」ということ。この世界観なら、「壊れたもの」に「価値」を見出すということも納得です。意図的な構図ではなく偶然性が創り出す景色を愛で、傷跡を醜いとせず、愛おしく思う日本人の美意識の広さは、世界にも自慢したいところです。

【金継ぎの意外な効果】

金継ぎが注目されているのは、その壊れたものを美しく、新しく修復できるという他に、セラピー効果があるとして取り上げられたのもひとつの理由です。日本人にとって思い出深い器や湯呑というのは形見や記念など、重要なものが多くあります。今年、東日本大震災から10年が経ちましたが、当時その大切な器などが割れ、落胆された方々がたくさんいらっしゃいました。そこで震災後、金継ぎのボランティアとして被災地へ行き、器を繕う活動がありました。金継ぎがされた思い出の品々を見た被災地の方々は大変喜ばれたそうです。中には「自分自身が修復された気持ちになった」という声もあったそうで、持ち主と器というのは心で繋がっているということが分かります。金継ぎには「器を再生する力」だけではなく、「精神的な繋がりを修復し、心を治癒する力」も備わっているのです。

その人だけの、お金に換えられない「ものの価値」があります。割れても直せるんだと思うことで、思い出も一緒に捨てなくて済んだり、今までもったいなくて使えなかった器が日常的に使えるようになったり。「割れもの」というとネガティブになりやすいですが、金継ぎは割れることも肯定した上で、それを新たに美しく蘇らせる不思議な力があるのです。サスティナブルな日本の伝統技術を、興味があればぜひ体験をしてみてください。

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