コラム

職人の道具 現地を旅して ~木地の山中~

2021.06.02

これいい和の政木です。

「木地の山中」と称される石川県の伝統的工芸品・山中漆器は、器の木地作りに力を入れています。

およそ450年という途方もない歴史を持つ山中漆器。

漆の艶やかさと蒔絵の美しさで一目で「記念品」と分かる高級感のある商品から、木の木目から温かみを感じられるような素朴で普段使いしやすい器まで、多くの技術を駆使して幅のある物作りを展開されているのが山中漆器の魅力です。

これいい和でも企業様の周年記念品、外国の方への贈り物等、年代や国を超えて、とてもお客様からの人気が高い商品です。

先日、石川県に訪問した際、様々な工程を見学させていただきました。

今回はその歴史ある山中漆器を語る上で欠かせない、職人さんの「道具」について触れてみたいと思います!

金沢駅から特急でおよそ25分。降り立った「加賀温泉駅」。加賀温泉駅と言えば、その名前の通り、温泉地として知られています。

その一方で「山中漆器伝統産業会館」があったり、山中漆器の産地としても有名です!

その昔、遡ること安土桃山時代に、挽き物の技術を持って生活していた木地師がこの山中温泉の地域に定住し、そこで木地を挽いたことが山中漆器の始まりと言われています。

・分業制の山中漆器

まず、山中漆器の特徴を簡単に説明します。

その工程は細かく分けると非常に多いのですが、

1木地
2下絵
3塗り
4蒔絵

といった大枠で言うと4工程、この工程はすべて分業で成り立っています。

「木地を学びたければ山中漆器を学べ!!」と言われるほど、「木地づくり日本一」の技術を持つ山中漆器。

最初の「1.木地」でもざっと9種類の工程があり、乾燥期間だけでも最低80日間を要します。

すべてご紹介したいのですが、収まらなくなってしまうので、今回は「木地挽き」に絞ってみなさまにご説明したいと思います。

~ろくろ~

まず、木地挽きに欠かせないのが「ろくろ」です。

もしかすると、「ろくろ」と聞くと、陶芸で使う回転する台をイメージした方もいるかもしれませんね。私も最初工芸品に詳しくない時は正直あまりイメージが湧きませんでした。

山中漆器の木地作りに使うろくろは、「横座式」と呼ばれ、「治具」(固定する機械)と呼ばれる道具に、あらかた作りたい形に削った木材を「横」に固定して使用します。

通常は陶芸などのろくろであれば、正面にして物を固定すると思いますが、山中漆器はここが大きく異なる点になります。

そして、下に設置された足のペダルを踏むと…このセットした木材が回転しはじめました!!

その回転をさせた状態の木材に「かんな」を当てて、削っていく作業が始まります!

ろくろが横になっているのは、削る作業をしやすくするためなんですね!

ちなみに、このろくろは1分間に約1,000回回転するんだそう!!

ペダルの踏み方によって、回転速度や回る方向を変えることができます。

実際その工程を拝見しましたが、手と足と全身を使っていることに驚きました!!

この機械を操りながら一つの物が完成していくんですね。

~カンナ~

そして、木地づくりにおいて、形を整える上で外せないのが「カンナ」の存在です。

カンナと言っても、よく家を建てる時に職人さんが使っている、上下に「シャーッ」と動かす物とは異なります。

このカンナとは、長さや先端の形状が異なる、一見すると鉄の棒のような物に柄がついた形状のものになります。

そしてこのカンナ、基本の物で6種類あるんだそう。

1「ウラビキ」外側を削る

2「エグリ」中を掻き出し、深さを掘る

3「クリダシ」中を取る

4「ヒラジャカ」凹凸をとるのに使う 

5「マルジャカ」中の凹凸を取る

6「丸鉋」(まるがんな)

この6つにプラスし、特殊な形の器を作る場合は、カンナもそれに合わせて無数に存在します。

でも、木地師と呼ばれる職人さんは、年齢も違えば体格も違う…同じ道具でも使い勝手も当然違ってきます。

そこで、自分たちで鋳造しそれぞれに合ったカンナを一つ一つ作っていくんだそうです。

ちなみに、加飾挽き(かしょくびき)という22種類の模様や筋を入れていく過程には、また別の種類のかんなが必要とのこと!!そう考えると本当にたくさんの種類のカンナが存在するわけですね。

この様々な道具を使いこなすには、カンナの形状や重さ等の特徴を知り、どの角度で木地に当てていくか、どの力加減で行うか等、道具という武器をよく知らなければならないことはもちろんです。

己の技術と道具を見極めていくことがここでは必要になるわけですね。

そこにはきっととてつもない時間と労力があるはずです。

実際に挽く作業をしていただいたのですが、カンナの当てる角度とろくろの速さ、回転方向、本当に様々なことを考えて1つの物を作り上げていることに感動しました。

そして、個人的にはカンナで削った後に発生する木屑、回転に合わせてたくさんの木屑が作業場には広がっていましたが、これがとてもいい香りで、私は作業場がとても好きになりました。

~カンナ台~

最後にご紹介したいのが、「カンナ台」です。

常に回転しているろくろにカンナを当てていくという作業。少しでも角度がずれると、同じな厚みや模様にはなりません。

もうお分かりかと思いますが、同じ姿勢でずっと挽き続ける職人の方には、体力と集中力、そして技術と相当なものが要求されるわけです。

それを支えてくれるのが、このカンナ台です。

安定して木地を挽けるよう、この上に腕を置くことで体を固定してくれる木製の台になっています。

同じ態勢を必要とされる上半身を支え、安定させてくれることで、均一な厚みやきれいな均等な模様ができあがるんですね!!

今回、木地作りの工房さんの実際の工程からご紹介しましたが、

一つの物が作られている背景には、職人さんの1つ1つのこだわりと、技術、それを支える道具があって成り立っていることを、目で見ることでとても実感することができました。

私も仕事をしていて、より自分がやりやすく、また仕事を効率化できるような工夫をしたりやり方を考えることがあります。

皆様も仕事の道具を整え、環境を整備することで自分が集中できる状況を作る大切さは実感されているのではないでしょうか。

ただ、実際に作業を拝見し、自分の仕事道具を大切に、愛着を持って接している様子を知ることができ、物を大切に扱うことの大切さや、このような方々に商品を作って頂いていることをとても誇りに感じました。

その証拠にどの道具を見ても、とても使い込まれていて、きっと長い間ご主人を支えてきたのだなぁ…ということが伺える佇まいをしていました。

こうして木地の工程を終えた器は、その次の工程の職人へ繋げていきます。

お客様の手に届くまで、まだまだたくさんの職人さんの手が加わっていくわけですが、少しでもその工程が伝わって下さっていると嬉しいです。

最後に、

今回ご紹介したのは、山中漆器の「木地」の工程のほんの一部になります。

そして、現在の山中漆器は「木製漆器」と「近代漆器」という種類に分けられています。

戦後、昭和30年代くらいから合成樹脂(プラスチック)を主にウレタン塗装を施した手法で現代の生活に合った漆器も数多く生み出しています。

技術を活かして挑戦を続ける山中漆器の今後のさらなる発展が楽しみですね!

今回は「塗り」の工程も、実はこの後見学させて頂きました。

本来もっとお伝えしたい部分はたくさんあるのですが、それはまた別の機会に皆様にお伝えできればと思います。

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